休日パシリ
私は今パシリをしている。
何か誤解を招くかも知れないが、私は氷帝のマネージャーで、本日は
部のドリンク等の買出しに来ているだけだが、余りにも量が多すぎる。
昨日、跡部に買出しに行けと命じられたが、一人で行くのは嫌だと言った。
しかし現実はこの有様だ。神は私が嫌いなのだろうか…。いや、きっと跡部が
私を嫌いなのだろう。長太郎が見かねて『行きましょうか』と言ってくれたのに。
跡部がそれを阻止した。跡部と一緒に行きたかったのに。
付き合っていると言うのにこの塩梅だ。私と跡部は付き合い始めて1ヶ月くらいで、
優しい時はとことん優しいが、意地悪なときは本当に酷い。せっかくの休みなのに…。
そんな事を考えていたら、見知らぬ男から声を掛けられた。
『ねえ、彼女何してんの？』
見て分かれ。大量の荷物を持っているのだから。しかし、今時『ねえ彼女』と言うやつが
いたとは…。
「買出し。今から帰るところだから、邪魔しないで。」
後はこの荷物を学校にしまえば本日の仕事は終わりのはずだった。しかし何を勘違いしたか男は
執拗に付いてくる。後ろに張り付くように声をかけて来る。面倒だから学校まで行って、
それでも付いてくるようなら警備の人に助けてもらおう。
着いた。しかし、このナンパ男はまだ付いて来る。よっぽどの暇人かよっぽど女に飢えているかの
どちらかだろう。できれば暇の方だとありがたい。剥がすのが楽だからだ。
『ねえ、無視しないでよ。』
女みたいな喋り方をする。もしかしたら私よりよっぽど女らしいのでは無いだろうか。
男を放っておいて、仕事を進める。テーピングや湿布、コールドスプレーなどは救急箱に
しまう。ドリンクなどは所定の位置へ。あらかたしまい終わった所で男が切れた。
『無視するなって言ってんだよ！』
なるほど、どうやら女に飢えている人だったらしい。跡部に無駄な意地悪をされて自暴自棄に
なっていた。別にこの人に犯されても良いか、って気になってきた。きっと跡部は私が犯されても
気にしないに違いない。とか考えてたら部室の床に押し倒された。男の顔と天井が私の目に映る。
『うわっ！』
いきなり何だか知らないが、男がうめき出し、体が浮いている。変な病気の人なのだろうか。
「人の女に何してんだよ、アーン？」
違った。跡部景吾と樺地だった。樺地が男を持ち上げているらしい。
「樺地、下ろしてやれ。」
「ウス。」
男が私の上に戻ってきた。正直重い。
「人の物に手出してんじゃねえよ。」
あっという間だった。気付くと男が私の上に降ってきた。重いなんて物じゃない。
「重い…。」
少し体を起こすと男は跡部に蹴られたらしいと言うのが分かった。と、言うより、踏まれた？
「樺地、ソレ、持って帰れ。適当に捨てろ。」
「ウス。」
男が抵抗をしている。私達に暴言を吐いているが、跡部は気にしてないらしい。
あっという間に樺地がナンパ男を持って帰っていった。
「おい、何で抵抗しねえんだよ。」
何で、と聞かれても…。とか考えてたら生暖かい液体が私の頬を伝った。それが私の涙だと
認識するのに少しかかった。そうか、私は跡部に冷たくされたのが悲しかったのか。
だからナンパ男にヤられてもいいと思ったのかも知れない。
「っ…。跡部が優しくしてくれないから…。ヒック…。」
正直、馬鹿げていると思う。彼氏がいつだって私に優しいと思ったら大間違いだ。
「俺様のせいかよ…。おい、悪かったな。」
珍しく跡部がうろたえてるらしい。別に私だっていつまでも泣いていたくは無かったが、
私の意志に反して涙は止まらない。
「泣き止めって。」
しかし私の涙は止まらない。跡部が暴挙？に出た。
「ん…。」
泣いている私の顔を引き寄せて跡部が私にキスをした。子供をあやす様な触れるだけのキスだ。
少しだけ涙が止まった。また跡部の顔が近づいてくる。キスをされるのかと思って目を閉じた。
が、違った。跡部は目を閉じた私の目尻に唇を近づけて私の涙を舐めとった。涙は完全に乾いた。
「機嫌直ったか？」
「うん…。跡部、私の事好き？」
恥ずかしかったが思い切って聞いてみた。
「ああ。」
返事は短かったけど、跡部の気持ちが分かったから嬉しかった。
「ありがと、私も跡部が好きだよ。」
真っ赤になりながら言った。普段なら絶対に言わない言葉だ。ふと顔を見上げると跡部も
真っ赤になっている。私は変な事を言っただろうか。
「…。何か私変な事言った？」
「うるせえ。」
あ、跡部は私の告白に照れているのか。照れている跡部が可愛くて私はクスクス笑った。
余りにも笑うので跡部も笑い出した。
「ふふ。跡部、大好きだよ。」
また跡部が真っ赤になった。
幸せって意外と近くにあるものだと思った。