大魔王と村人A


 私は今走っている。別に好きで走っている訳ではないけど、とにかく走る。
走らなければ捕まるからだ。あの大魔王不二周助に…。

 事の始まりは5分前。私は授業を居眠りしていた。視線を感じて起きた。同じクラスの不二周助が
こっちを見ていた。何か嫌な物が背筋を走った。起きると不二君(本当はこう呼んでる)がこっちを
見ていた。にこりと不二君が笑った。怖かった。私は昔から勘が良い方で、ある意味自慢だった。
 授業が終わって不二君に話し掛けられた。
さん、少し話があるんだけど。」
 正直嫌だった。私の本能が逃げろと言った。そんな訳で走ってその場を立ち去った。不二君は追いかけてくる。
「ごめん、不二君!」
「あっ。」
 とにかく逃げる。



 10分程逃げ回ってふと気が付いた。不二君の用件を聞いて無いのに何で走って逃げたんだろう…。
いくら何でも失礼だと思った。寝起きが不味かったのかな?振り返って不二君の話を聞こうとした。
 いない。適当な教室に入る。扉に寄りかかる。不二君が追いついたらしい。独り言が聞こえる。
さん、いきなり逃げるなんて酷いなあ…。フフッ。その方が追い詰めがいがあるけどね。」
 えらい事を聞いてしまった。逃げたいが不二君がそばにいるので逃げられない。放課後なので誰もいない。
誰かー、助けてー。大石君に手塚君。菊丸君に河村君。不二君を迎えに来そうな人はたくさんいるのに、誰も不二君を捜しに来ない。
「見つけたよ。」
 ビクッと肩が跳ねる。こうなると捕まった宇宙人のような心境で不二君を見上げる。いや、捕まった宇宙人の
心境なんて分からないが。
「えっと、いきなり逃げてごめんね。用件って何?」
 兎にも角にも自分の非礼を詫びる。しかしあの台詞は何だろう。怖い。
「えっと…。僕と付き合って欲しいんだけど…。」
 TSUKIAU?!思わずローマ字になってしまった。でも、付き合うのは正直嫌ではないけど、怖い。
あんな台詞を聞いた後だからかもしれない。
「ごめんね、不二君。私、不二君とは付き合えない。不二君には私より良い人がいるよ。」
「そっか…。ところでさん、僕から今逃げたよね?僕傷ついたな…。一生のトラウマになるかも…。
さんが付き合ってくれるなら傷も癒されるかも知れないんだけど…。まさか、嫌なんて言わないよね?
自分の行動で僕を傷つけたんだから…。」
 台詞が長い。そんな事よりもどうしよう。ここで断ったら不二君に地味に嫌がらせをされる気がする。
私の責任と言うのも一理ある。ここまで言われて断れるほどの度胸は私には無かった。
「………。私で良ければ…。」
「本当?嬉しいな。フフッ。よろしくね、さん。僕の事は周助でいいから。」
 クスリと不二君が笑う。怖い。もしかしたら私は魂を売り渡した事になるのか?
この日から大魔王不二周助と地味な村人A(私)の戦いが始まった。いや、力の差が歴然過ぎて戦いにもならないが。



、屋上でご飯食べよう?」
、宿題の答え合わせしない?」
、部活終わったら一緒に帰ろう?」

 寝ても覚めても魔王漬けだった。断ろうとすると例の脅し文句が出てくる。おかげ様で友達付き合いもままならない。
このままでは友達がいなくなってしまう。魔王に言ったら、僕がいるよとの事だった。魔王に完全敗北する日も近いかも知れない。

 ところで、何気に菊丸英二と私は大の仲良しだ。英二も魔王の恐ろしさを知っているので、たまに苦しみを分かち合う。
今日も英二に愚痴を聞いて貰っていたところだ。私のように地味な人間のどこが良いのかは分からないけど、英二は私を
面白がって仲良くしてくれる。それがいけなかったらしい。放課後、英二の様子が変だった。英二を屋上に誘う。
「英二、何かあったの?様子が変だよ。」
 何となく嫌な予感がしていた。英二の元気が無いのは魔王のせいじゃ無かろうか。
「何言ってんだよー!俺は元気だから、気にすんなー?」
「嘘つき。大石君が昼休みにフォーメーションの確認に来た時だって大して聞いて無かったじゃない。」
 英二は少し俯いてからゆっくりと喋りだした。
「うーん…。ちょっとだけ不二に怒られちゃってさ。」
 この一言が私の怒りに火を付けた。恐らく英二は私の関係で怒られたのだろう。魔王は異様に嫉妬深いのだ。
いくらなんでも勝手だと思う。魔王に私の友達関係をどうこう言われる筋合いは無い。
「ごめんね英二。本当にごめん。」
 英二に申し訳なくて走り出す。今の私は魔王に勝負を挑む気がまんまんだった。魔王を探す事にする。



 教室にいた。展開が早すぎて恐縮だがいた物はしょうがない。怒りのオーラが消えないうちに魔王に話し掛ける。
「周助君!」
 何しろ魔王が周助と呼べと言うので、100歩譲って周助君と呼んでいる。
「あ、どうしたの、。」
 いつものように魔王がにこりと微笑む。この微笑に負けた人間は何人いるんだろう。
「周助君、英二が元気無いんだけど、英二に何か言ったの?」
 単刀直入に話を切り出した。相手はどう出るのか。
「うん。言ったよ。英二が僕のと仲良すぎるから、あまりに近づかないでってお願いしたんだ。」
 一体どんなお願いの仕方をしたんだろう。その言葉に私は完全に切れた。
「私の交友関係にまで口出ししないで!周助君は最初から無理矢理すぎるの!周助君って大魔王みたい。我儘で傲慢な大魔王。
大魔王なんて勇者様に退治されちゃえばいいんだ!魔王なんて大嫌い!」
 一気に喋ると涙腺が壊れたかのように涙が溢れた。悔しくて、悲しくて、魔王の勝手さに腹が立ってひたすら泣いた。
「言いたい事はそれだけ?」
 魔王が口を開いた。何故メソメソしている仮にも彼女に向かってそんな言葉が吐けるんだろう。きっと大魔王は私が嫌いに違いない。
「まだあるよ!私みたいな平凡な村人Aには大魔王の相手はできない。もう嫌だ。」
 そのまま泣き続ける。しばらくは私の泣き声だけが教室を支配していた。



 どれくらいたっただろうか。涙は乾いてきた。目の前にいる大魔王を見上げる。魔王は少しだけ困った様な顔をしている。
「泣き止んだ?ごめんね。」
 我が耳を疑った。魔王が謝っている。
「でも僕はが好きで、を手に入れるためならどんな事でもしようって思ったんだ。僕は基本的にだけ見てるから、
にも僕を見てて欲しい。勝手だって言うのは分かってる。僕にとってはは自分で言うような村人Aなんかじゃなくてお姫様なんだ。
今回は少しやりすぎちゃったみたいだけど、僕はを手放すつもりはないから。だから、今回みたいな事はもうしないって誓うから
僕を少しでも好きになってくれないかな?」
 またしても台詞が長い。いや、それは置いといて。散々勝手なことをしておいて勝手過ぎる。が、しおらしい魔王を見ていると
好きになれるかもと言う感じがしてきた。きっとこの人は他の人より不器用なんだろう。
「もうこんな事しない?」
「もちろん。僕を好きになってくれるの?」
「分からない。けど、努力はする。」
 正直な気持ちを打ち明けた。魔王のした事は酷いと思うけど、反省してるなら良いか。なんて思っている時点で好きなのかも知れない。
魔王が微笑む。
「ありがとう。」
 魔王は私をお姫様だと言ったけれど、私はお姫様は嫌だ。もちろん村人Aに甘んじる気も無い。私はいつか勇者様になりたいと思う。
そしていつの日か大魔王不二周助と対等に渡り合えるくらい…。いや、大魔王に勝利したい。だから、首を洗って待っていろ、
大魔王不二周助。

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