境界線
私にはとても仲の良い男友達がいる。友達の名前は菊丸英二。テニス部所属で、
飛んだり跳ねたり走ったりしているらしい。らしい、と言うのは英二がテニスをしている所を
一回も見た事がないからだ。私は放課後はだいたい男といる。だから英二の練習を見る
暇がなかなかできない。はっきり言って英二より男だ。まあ、男と言ってもほぼ日替わりだけど。
「ー。数学の宿題みせて!」
いつも通りに英二が宿題の要求に来る。答えは毎回同じなのに絶対に最初に私のところに来るのが
不思議だ。
「やってない。不二に見せてもらった方が早いんじゃない?しかし、英二もよく飽きずに言うよね
私が宿題やってた事なんて一回もないじゃん。」
「うーん、不二に見せてもらうと微妙にお説教が入るからにゃあ…。連動して大石の耳にも入って
さらに怒られるし。」
英二が頬を掻く。そこらの女の子よりも可愛いかも知れない。
「は宿題どうすんの?」
もっともだ。しかしやってないのだから仕方がない。私は逃げる事にした。
「サボる。何なら英二も一緒に行く?」
死なばもろともだ。英二も誘う事にした。いっそ不二も誘うのも良いかも知れない。
「もっちろん!いい天気だし屋上行こう!」
考えは同じだったらしい。私は英二のこういう所が好きだ。
「いいよ。不二も誘わない?」
「いいよん。ちょっと待ってて。」
英二が不二に近づいていく英二は不二に二言三言話し掛けて帰ってきた。
「不二、行かないって。」
「そっか。んじゃ、行こう。」
一回学校を抜け出してコンビニでジュースを買う。私はアップルティーにした。学校に戻る。
門を乗り越えようとしたら英二がスカートを気にしていた。下に1分丈のスパッツを穿いているから
平気なのに。そのまま屋上へ向かう。本当に今日はいい天気だ。
「あー、いい気持ち。こんなに天気がいいと授業出るのが嫌になるよね。」
「同感!」
英二は本当に気持ちよさそうに日に当たっている。何だか猫みたいだ。いや、英二が猫っぽいの
なんて今更だけど。そのまましばらく無言で寝転がる。太陽の光と温度が気持ちいい。
「ねえ英二、彼女できた?」
素朴な疑問を口にした。英二は結構もてるのに彼女を作らない。何故だろう。
「ううん。たまに告白してくれる子はいるけど、俺好きな子いるから。」
「そっか。じゃあ、英二の好きな子って誰?」
当たり前の流れに持っていく。本心から英二の好きな子が気になった。
「教えなーい。がの好きな人教えてくれたらいいよ。」
なんじゃそりゃ。別に私は誰も好きじゃない。けど、みんな好きだ。はっきり言って誰でも一緒らしい。
だから、一人の子に夢中になれる英二が羨ましく、英二に思われてる子が羨ましかった。
私の周りにいる男は大方私の体が目当てだったから。今でも体だけの付き合いの男はたくさんいる。
「私は多分誰も好きじゃないよ。誰も私のことを好きじゃないから。」
本心を言った。英二の顔が強張る。どうやら気に障ったらしい。
「何だよそれー。あんなに男と一緒にいて、誰も好きじゃないなんて、失礼だぞ!」
怒られた。そんなに怒るような事だろうか。
「だから、誰も好きじゃないのは男が私の事を好きじゃないから!みんな私の体目当てだから
好きになれないの!」
思わず声を荒げてしまった。どうして英二は分かってくれないんだろう。英二の意見は男ならではの
意見だった。
「そんな事言ってるからろくな男が寄ってこないんだよ!誰もの事を好きじゃない
なんて言うな。」
だんだん腹が立ってきた。何で英二にこんな事まで言われなきゃならないんだろう。ただの友達の
英二に。英二にそんな権利無いはずだ。
「何で英二にそんな事言われなきゃならないの?私の男関係なんて英二には関係ないじゃん。
いいから英二は好きな女の子にだけ媚てれば?私の男関係の事は放っといてよ!」
言い過ぎたかもしれない。しかし言ってしまった事はしょうがない。空気が気まずいので帰ることにした。
「帰る。バイバイ。」
そのまま後ろを振り返らずに帰る。タイミングよくチャイムが鳴った。休み時間の間にカバンを掴んで学校を出た。
次の日。学校に行く気はしなかったが、暇なので学校に行く事にした。英二の事は考えるときりが無いので、
考えるのを辞めた。
教室に入る。英二と目が合う。でも今日は何も話さない。いつもなら英二が話し掛けて来るのに。昨日私が言ってしまった
事はかなり英二を傷つけたらしい。でもまだ謝る気にはなれなかった。授業に出る気がしなかったので、今日もサボる事にした。
屋上に行く。今日もいい天気だ。そのまま寝転がる。太陽の光が気持ちいい。昨日と違うのは今日は一人だと言うだけだ。
ふいに胸が痛み出す。何故だろう。分からなかった。英二がいないぐらいで私は何故こんなにも胸が痛くて空虚な
気持ちになるのだろう。当然のように涙が流れ出す。久しぶりに泣いた。みっともないので目を閉じた。
「英二…っ。」
自然と英二の名前を呼んでいた。
「ん、何?」
返事が返ってきた。寂しさのあまり幻聴が聞こえるようになるとは思わなかった。
「呼んどいてシカトかー?」
また聞こえた。目を開ける。いつもの英二の顔がアップで見える。勢い良く起き上がる。英二とおでこをぶつけた。
「いってー。何すんだよー。」
「あ、ごめん。」
とりあえず謝る。
「「…ごめん。」」
ハモった。英二が喋りだす前に喋る。
「英二は心配?して言ってくれたのにあんな酷い事言ってごめん。」
素直に謝る。英二ははにかんでいる。今度は英二が喋りだした。
「俺こそ余計なこと言ってごめん。でも、俺はが好きだから誰もの事を好きじゃないなんて言うのが
嫌だったんだ。」
そうか、英二は私が好きだったのか…。………え?!英二が私を好き?そんな馬鹿な。え?いや、有り得ない。
「、返事もらってもいいかにゃ?」
本当だったらしい。少しだけ気が遠くなるのを感じた。
「えーと、上手く言えないんだけど、今日英二がいないのにサボって凄く寂しかったの。喧嘩して胸が痛くなったの。
これって英二が好きなのかなあ?いままで誰かにこんな気持ちになったこと無いから。分からないんだけど。」
自分の気持ちを包み隠さず正直に喋る。恥ずかしくて俯いていると英二にいきなり抱きしめられた。
「うん。俺も同じ気持ちだから。俺、の事大切にする。だから俺と付き合って!」
「うん。私、こんなだけど、英二と一緒なら変われるかも。だから、私と一緒にいて下さい。」
告白をするのは生まれて初めてだった。英二が真っ赤になる。私は英二が傍にいてくれるのが嬉しくてにこりと笑う。
それをみて英二も笑う。私はこれ以上無いくらいの満ち足りた気持ちになった。
「これからもよろしくね、英二。」
小声で呟くとまた英二が笑った気がした。